教育・福祉施設デザイン事例集:鎌倉市教育委員会(神奈川県)
学校の中に、ホッと安心できるリビングのようなスペースを鎌倉市内小中学校9校に「校内フリースペース」設置/リニューアル


学校に通いづらいと感じる子どもを始めとし、様々な教育的ニーズを持つ子どもたちに「多様な学びの場」を提供するため、学校内の空き教室などを活用した「校内教育支援センター」(鎌倉市では校内フリースペースと呼称)の設置が全国的に広がっています。
鎌倉市教育委員会とイケア・ジャパン株式会社は2023年に「多様な学びの場の構築に関する連携協定」を締結し、2024年度を皮切りに3年かけて鎌倉市立小中学校全25校に整備する「校内フリースペース」と、「学びの多様化学校(不登校特例校)」の2025年開校に向け、協働して空間構築に取り組んでいます。
今回の事例のご紹介にあたって、鎌倉市教育委員会教育長ならびに、日々学校の現場で子どもたちと向き合っている校長先生、担当の先生の生の声をお聞きしました。

子どもたちの個性にあわせて、バリエーション豊かな学習環境を提供
校内フリースペースは、安心できる「とまりぎ」のような場所
校内フリースペースもその一環であり、学校内における「とまりぎ」のような場所をイメージしています。たとえば、不登校から「学校に戻ろう」となったときに、いきなり教室に登校するのはハードルが高いので、まず校内フリースペースが一度クッションになります。また「教室がしんどいな」と感じたときにもここで温かく迎えることで、長期の不登校を未然に防止する役割も担っています。教室に入りづらい要因は様々で、たとえば「友人関係の悩みが改善すれば教室に行ける」といった単純なものではないことが多いです。子どもたちにはそれぞれ学びの個性や特性があり、他者と協働して学ぶのが得意な子も、静かな場所で集中したい子もいます。私たち大人も同じですよね。
イケアならではの、ぬくもりのある空間に
学びの個性や特性から、教室での大勢に対する一斉指導のスタイルになじめない子もいます。校内フリースペースは教室に入れない子のセーフティネットという側面もありますが、一人一人に合った多様な学びをつくっていくための前向きな場所であるとも考えています。
今回は「学校らしくない場所」「教室っぽくない場所」をつくるチャレンジでもあります。リラックスできるソファやカラフルな小物を取り入れ、イケアの強みを生かしたリビングのように「ぬくもりのある居場所」を作ることができたと感じています。ここが実は重要で、子どもたちの心理的安全性が高まるポイントだと考えています。
子どもたちは、学校で先生や友達と触れ合って、大いに人間的な成長をしていきます。教室に入れなかったとしても、学校まで来られたら、まずは大きな第一歩です。子どもたちの個性や特性を見つめながら、一人一人が主体的に学びを掴みとれる、自ら選べる教育環境を提供していきたいと思っています。その目標に向かってまずは3年、イケアと一緒に校内フリースペースの整備を推進していきます。
事例1 鎌倉市立御成中学校
子どもたち一人一人が安心できる「自分の居場所」を用意
坂井奈緖先生(校内フリースペース運営を担当):
本校の校内フリースペースはすでに運用が始まっていましたが、ありあわせの備品を使用していて、どうしても色合いや雰囲気が暗くなってしまう点が課題でした。今回のリニューアルを経て、とても明るくなったことが何よりも嬉しいです。
校内フリースペースを主に利用するのは教室に足が向きにくい子ですが、その理由は多岐にわたります。また小学校に比べ中学校では勉強の内容が難しくなるので、授業のペースについていくのが難しく、教室に居づらくなるケースもあります。
そういったときに、この「とまりぎ」のような校内フリースペースで一息つくことによって、教室に戻る気持ちを養ったり、この場所を活用して自分のペースで学びを続けられるようになったりするんです。
ほどよく光が透ける素材のカーテンがいいですね。パーテーションの高さもちょうど良く、明るく見通しのいい空間になりました。グリーンもあしらっていただいて、全体的に落ち着いた雰囲気になったなと感じます。
個人的には、個別スペースのデスクを照らすライトと、荷物を入れる足下のバスケットが気に入っています。この個別スペースは、みんながいる共有スペースを通らずに直接廊下から入ることができます。人と顔を合わせるのがしんどい、そんな時に使う場所です。そのデスクに、このライトやカゴがあることで、一人一人の子どもに「あなたの場所だよ」と伝わるような気がするんです。
共有スペースの明るさと、個別スペースの安心感、どちらもそれぞれの良さがありますよね。リニューアルしたばかりですが、子どもたちにとって「より安心できる自分の居場所」になったのではないでしょうか。
自分たちの手で居場所を作る
IKEA横浜(旧IKEA港北) 中田:
先生方から「家具の配置を変えられるようにしてほしい」といったご要望がありましたし、「多様な学びの場」のあり方を考えたときに、家具の「可変性」は大きなポイントです。
さらに生徒さんから話を伺うと、「座り心地のいい椅子がほしい!」とのことだったので、ソファや椅子を選ぶ際に参考にしました。その上でカーテンの色と床の色を合わせるなど、床や壁を含めた既存の設備との調和に気を配ってプランニングを進めました。その結果、自由に使える利便性と、統一感があって落ち着いてゆっくり過ごせる雰囲気の両方を備えた場所に仕上がったのではないでしょうか。
空間も、子どもたちの気分も明るくなる理想の場所
事例2 鎌倉市玉縄小学校
ワイワイと遊んで、自由に学ぶ。子どもの個性に合った環境づくりがカギ
廊下から覗いたときに、カラフルなソファがチラリ。「楽しそう!」と思える場所に
家具の組立てを通じて、子どもたちへの想いを深める
教職員にとっては、家具の組立てを自分たちで行った点がとても良かったと感じています。組立てながら、「あの子はこの椅子が好きそう」「この場所が気に入りそう」などと子どもたちの話で盛り上がり、普段フリースペースを担当していない職員も身近に感じてくれましたし、より子どもたちへの想いが深まるきっかけになりました。
「楽しい」と「安心」を最重視!明るく、可愛く、自由に使えるスペースに
IKEA横浜(旧IKEA港北) 中田:
パッと見たときに窓が大きく明るく、活用できそうだな、と感じました。担当の先生からは「可愛い雰囲気にしてほしい」とご要望いただいたので、部屋の持ち味を生かした明るくポップなプランニングを心がけました。カラフルで、みんなでワイワイ遊べるイメージですね。
教室が苦手な子どもだけではなく、毎日教室で授業を受けている子どもたちもワーッと遊びに来たくなるような場所。その上で、静かに一人で過ごしたい子どものためには周りからしっかり隔離され安心できるような場所もつくっています。またフレキシブルであることも重視した点です。みんなで何かに取り組むときは簡単にパーテーションを動かせます。
収納などの小物も見て楽しくなるものを中心に選ぶよう心がけました。明るく可愛く安心できて、何より子どもたち自身が使いたいように使えることを一番大切に考えました。たくさんの子どもたちにとって「遊びに来たい!」場所となり、教室に戻る一つのきっかけになったり、学校で楽しく過ごすための助けになったりしたら嬉しいですね。
「学校の中にも、安心できる場所があるよ」—学校から、子どもたちへのメッセージ
石川校長:
リニューアルして格段に居心地が良くなり、子どもたちが本当に喜んでいます。また、学校の中にこのような場があると保護者のみなさんの安心にも繋がるように思います。学校への信頼感も増して、子どもたちの未来を一緒に考えていけるのではないでしょうか。
音が苦手な子、黒板の字が苦手な子、一人になりたい子…。色々な個性の子どもがいて当たり前なんです。だからこそこの場所を活用して、子どもたち一人一人が、自分に合った生活や学習スタイルを見つけられるよう運用を続けていきます。なにより、このように明るく楽しげなスペースがあること自体が「安心して過ごせる場所があるよ」という、学校から子どもたちへのメッセージになると信じています。
すべての子どもたちに、主体的に学べる教育環境を提供
高橋教育長:
今回イケアに相談した理由は、北欧風のおしゃれさや温かな雰囲気を期待した面が大きいですね。従来の学校は四角い空間が多いのですが、提案していただいたプランや今回完成したあたたかい空間を見て、全く発想が違うと感じました。
ここまでつくり上げる過程にも満足しています。私たちの教育への想いの根本を汲み取っていただいて一緒に進めてくださった。本当にイケアを選んでよかったと感じています。
フリースペースを利用する子どもたちの中には、人間関係を築くのが苦手な子もたくさんいます。たとえばリビングのようなソファ席に少人数で集まって自然と会話が生まれ、心理的安全性を感じながら、少しずつ人間関係をつくっていけるといいですよね。
校内フリースペースは使い方が固定されていない自由な空間です。この場を存分に活用して、子どもたち自らが自分の場所を選び、学ぶ力を高めていって欲しい。
これからの教育を考えると、校内フリースペースのような場所は、子どもたちが自分らしい学びの場やスタイルを選ぶという側面からも必要になっていくでしょう。鎌倉市のすべての教室を急に変えることはできませんが、図書室やコンピューター室などの改変から取り組み、空間を生かして個別最適で協働的に学べる環境を提供していきたいですね。
安心できる「お気に入りの場所」を生み出す―より多くの子どもたちに、幅広い学習の機会を
DATA
施設名・所在地:
鎌倉市立玉縄小学校 〒247-0071 神奈川県鎌倉市玉縄一丁目860番地
鎌倉市立御成中学校 〒248-0015 神奈川県鎌倉市笹目町2-1
導入年月:2024年8月
導入に要した期間:約1年
IKEA for Business を選んだ理由:デザイン、コスト、プランニング力
担当したイケアストア:IKEA横浜(旧IKEA港北)
使用したイケアのサービス:ビジネスインテリアデザインサービス、配送サービス
※使用されている商品は記事掲載当時のものであり、販売が終了している商品が含まれる場合があります。