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陶芸家・鬼丸祐輔ー撮影風景と家での暮らし

アニー・リーボヴィッツが、福岡県東峰村の陶芸家・鬼丸祐輔を訪ねました。陶芸家として代々家を守ってきた彼にとって、家とはどのような場所なのでしょうか。

 世界的に著名なアニー・リーボヴィッツが、福岡県在住の陶芸家・鬼丸 祐輔を訪ねます。 工房では自分の全てを出さないといけないと語る彼の手先をアニーが見つめます。

陶芸家・鬼丸祐輔ー作家名「碧山」ーは、鬼丸家の3代目として、福岡県東峰村で30年以上にわたって高取焼をつくっています。高取焼の可能性を、世界に伝えていくーそのためには、祖先が暮らしてきた家を、足元のルーツを、見つめなければいけないと彼は言います。 

鬼丸さんの窯元について、そして高取焼について教えてください。

高取焼は、400年前の朝鮮出兵の際に連れ帰った陶芸家と黒田藩の陶芸家集団が始めた、歴史的にも珍しい経緯のある陶器です。昭和30〜40年の茶道具が復興した際に、うちのおじいちゃんが高取焼復興に関わったのが鬼丸雪山窯元の始まりで、僕は3代目。そうした歴史ある高取焼を、現代に引き継いでいます。

現在の高取焼として僕が大事に思っているのは、歴代の方がそうしてきたように、伝統を守りつつも新しいことにチャレンジしていくこと。僕は高取の美意識がどこまで通用するかを確かめるために海外に挑戦をして、パリでは6回個展をやらせていただきましたし、オックスフォード大学でも講演を行っています。最近ではベトナムでJICA(Japan International Cooperation Agency)のプロジェクトを始め、現地の焼き物産業を発展させるために天然素材を活かした焼き物をつくっています。高取焼というのは、こうしたチャレンジを愚直にやり続けてきた、貴重な焼き物だと思うんです。

 先祖代々東峰村に住まれ、鬼丸さん自身もここで生まれ育ちました。鬼丸さんにとって、その家はどういう場所だと感じていますか?

一言で言うと、みんながいる場所。生きている人も、亡くなった人も、僕の人生を応援してくれている人がみんないると感じる場所ですかね。ここにはお墓もあるし、自分の先祖だけじゃなくて、近隣で生まれたおじいちゃんやおばあちゃんも、みんなそこにいるわけですよ。そうやって自分が生まれてからずっと自分のことを支えてくれた人たちが、いまもいるところかなと思いますね。だから毎月1日には、お酒とお米と塩を持って、うちの敷地をすべて回って一礼をするんです。

そのときに考えるのは、感謝ですね。パリで作品を発表したり、いまベトナムで仕事をしているなんて、考えもしなかった。健康な体で、そんな夢のような人生を送らせてもらってることに対して、感謝ですよね。

家が自分のアイデンティティを表していない、と考える人も多い中で、鬼丸さんの場合はもう、自分の家族も仕事も、すべてが住んでいる場所につながっているんだなと、お話を聞いて思いました。

人間の感じる普遍的な価値とは何かということを、作品をつくるときに常に考えるんですね。どうすれば世界の人たちに ——さまざまな国籍や宗教、人種の人たちに—— 興味を持ってもらえるものをつくれるかを探っていると、逆に「自分は何者か」というルーツに立ち戻る必要がある。そのときに、いま言った家の話につながってくるわけですが、自分のルーツを大事にできない人に、世界で通用する価値をつくる仕事はまずできないわけです。だからこそ、まずは自分の身近なところを大事にしなきゃいけないんじゃないかなと思いますね。

普段の食事で使う食器も、ここでつくられたものを使われているんでしょうか?

もちろんそうですね。でも綺麗な器を使うというよりも、歴代の作家とか弟子とか、いろんな人がつくったものが混じり合っているんです。そこから使いやすいものを適当に選んで使っています。

いい器を使っていると、やっぱり活きてくると思いますね。人間を人間足らしめるものは、文化だと思うんです。だから、プラスチックの安物の器を使っていたら、その人がどんなにお金を稼いでいようが、高い地位にいようが、文化的には人間らしくないように僕は思うんですよね。そういう意味で道具というのは、自分の成長のバロメーターでもあるんです。

工房は居心地の良い空間というよりも、緊張感のある場所。何かステージに上がったような感じのする場所ですね。ここに入ったら、より深く、自分の中のすべてを出さないといけない。

鬼丸 祐輔陶芸家、福岡県

家の中のお気に入りの場所はどこですか?

やっぱり食卓ですかね。幼い頃からそうですけど、みんなが集まっているところって食卓じゃないですか。だから、そこかなと思いますね。

最初におっしゃっていたように、鬼丸さんにとっての家は「みんながいる場所」なんですね。一方で工房では、作品をつくるためにひとりで過ごされる時間も長いのではないかと思います。

そうですね。工房の入り口には看板で、「鬼手仏心」っていう言葉をかけてあるんですよ。これはお医者さんに使う言葉なんですけど、人の体を切り刻むような所業は鬼の所業だけども、心は仏。その人を助けたいと思ってやっているんだっていうことなんですよ。この言葉をおじいちゃんがそこにかけたというのは、結局、焼き物をつくるのも同じということです。自然を破壊して、粘土を取って、木を切って焼き物をつくるのは鬼の所業だけれど、仏の心を持たなければいけない。そのためには資源を無駄にせず、文化を次につないでいく心を忘れちゃいけないということだと思うんです。

だから僕も仕事場に入ったら、とにかく集中してやります。工房は居心地の良い空間というよりも、緊張感のある場所。何かステージに上がったような感じのする場所ですね。ここに入ったら、より深く、自分の中のすべてを出さないといけない。経験を積んで、腕が上がれば上がるほど、「先生」と呼ばれたりもするわけですけど、そう言われるだけの仕事をしないといけないなと。職人ってそういうものなんです。 

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IKEA + Annie Leibovitz

イケアのLife at Home Reportによると、世界の約半数の人が、彼らの家での暮らしがメディアにあまり取り上げられていないと感じています。

イケアは、そんな人々のリアルな暮らしこそ取り上げる価値があるものだと信じています。そこで、私たちは暮らしの捉え方を変えることを試みました。有名な写真家であるアニー・リーボヴィッツとの初のアーティスト・イン・レジデンス・プログラムを通じて、私たちは人々や彼らの暮らしを見事な写真で表現します。

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