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役所というイメージにとらわれない、Itami New City Hall(伊丹市新庁舎)のインテリア

伊丹市役所(兵庫県伊丹市)

老朽化と耐震性が課題で建て替え

2022年11月28日、兵庫県伊丹市役所の新庁舎が開庁しました。地上6階、地下1階建て、新庁舎の基本設計を手がけたのは世界的建築家 隈研吾氏です。

昭和47年建設の旧庁舎は、築50年という老朽化の問題に加え、1995年の神戸の震災を経て、2002年の耐震診断で強度不足が指摘され、建て替えを検討していました。その後、2016年の熊本地震を契機に、建て替え計画を大幅に前倒しして、旧庁舎の北側緑地と西側駐車場を建設地として、2020年1月から建設工事が始まりました。新庁舎の特徴は、免震構造の採用などによる安全性はもちろんのこと、デジタル化の推進や建築美がみられる隈研吾デザインに加え、自然採光や自然換気が可能な高断熱かつ高気密となる高度な環境設計。外装による日射遮蔽と熱負荷を抑える窓ガラスの採用のほか、ソーラーシステムなどで50%以上の省エネルギーを実現し、2万㎡を超える大規模庁舎では西日本初のZEB Ready認証となっています。

そのような魅力溢れる新庁舎の室内やフロアには、随所にイケアの家具や小物が使われています。新しい空間作りへの取り組みについて、伊丹市総合政策部デジタル戦略室 新庁舎等整備担当主幹の中西寛さんに、お話を伺いました。

伊丹市 総合政策部 デジタル戦略室 新庁舎等整備担当主幹の中西寛さん

「イケアの家具は家庭向けと思っていたので、IKEA for Businessという仕組みがあることをこのプロジェクトを通じて初めて知りました。オフィスファニチャーとしてこんなに可能性があるとは、正直驚きです。既存の役所のイメージにとらわれない、新しい空間と働き方をイメージする中で、イケアの家具が快適で機能的な空間を生み出してくれました。」と、中西さんは話してくださいました。

フロアごと、部屋ごとに新しい工夫を取り入れて

市民の来庁が多い1階の窓口。グリーンが随所に置かれ、ホッとできる雰囲気に。
左、1階授乳室。右、2階授乳室は子ども関連の窓口があるので空間も広く取っている。アットホームな雰囲気にし、兄弟姉妹がいる場合のスツールも用意。

フロアごとに、イケアの家具や小物を取り入れているスペースをご紹介していきましょう。1、2階は、市民利用の多い福祉や年金、子ども関係の部署を集約し、必要な手続きが少ない移動でできるよう工夫されています。木を多く使った設計に合わせて、グリーンもたくさん取り入れ、ホッとできる和やかな雰囲気です。「職員も自分で育てているグリーンを持って来て飾ったりするようになったのもインテリアへの意識として大きな変化ですね。」と中西さん。

また、1、2階の両階にベビーカーのまま入れる授乳室やキッズスペースを設けました。「旧庁舎ももちろん授乳室はあったのですが、簡易的な間仕切りなど簡素な仕上がりでした。子育て世代の市民や職員に、どんな授乳室があったら良いかのアンケートを取って考えました。乳幼児を寝かせるベッドは腰の負担が少ないものであることや、アットホームで寛げるゆったりした椅子のほか兄弟姉妹がいる場合に座って待つことができるキッズ用のチェアなどを取り入れ、市民の皆さんにもとても好評です。」

3階の市民ロビー。広報や総務などの窓口がある。フロアマットのリズムのある色柄にグリーンが差し色になって、動きのある空間になっている。
4、5階にある相談室は、アースカラーでまとめて落ち着きのある雰囲気に。
保健室。

会議室は色でコーディネートして、色彩の心理効果を

会議室はそれぞれ色別にコーディネートし、伝統色の名称を付けている。緑を基調にした会議室307は「若草」。

3階の会議室は、廊下側がガラス張りで、室内が見えるようになっています。各部屋は色別でコーディネートされ、机や椅子のほかライティングまで異なる設えとし、会議の内容に合わせて選べるようにしました。緑ならリラックスした雰囲気、赤は活発な話し合い、青は集中して考えるなど、色の効果が感じられるようなインテリアでまとめています。

「それぞれの会議室の名前には色を連想させる伝統色を用いています。若草、蜜柑、浅緋、柿渋など。伊丹市は江戸時代から俳諧文化が盛んで、『ことば文化都市』を掲げています。そんな背景もあって伝統色を使ってみました。職員の間でも『今日の会議は若草で』などと、部屋番号よりも色名で呼ぶのが普通になるほど、仕事をする部屋というより馴染みの場所に行くといった雰囲気になっています。」と中西さん。

タイプや雰囲気の異なる会議室を持つことで、発想の転換ができるようになったそうです。

名称「蜜柑」の応接室、会議室。職員には「みかんちゃん」と親しまれている。
集中して会議を行いたい時の青やグレーを基調にした会議室。
新庁舎には立ったまま会議ができる部屋もいくつかある。会議が長引かず、集中できる効果があるという。バーテーブルとバースツールを採用。

会議室やミーティングができるオープンスペースは、椅子の高さも考えて配置しています。立ったまま、ゆっくり座ってなど、内容に合わせて選んでいるそうです。

「部屋やコーナーでフェーズが異なるようにしたかったのです。職員は自分のデスクにずっといるのではなく、モバイルパソコンを持って、前向きに自分の仕事ができる場所を探すアクティビティ・ベースド・ワーキングができればと思います。場所を移動し、他の部署の職員同士のコミュニケーションが活性化することも期待できます。」と中西さん。

4階エレベーター前オープンスペース。業者さんと立ちミーティング、待ち合わせにも使われるなど、動線の交差点としてコミュニケーションが生まれる。
5階会議室。窓なしの部屋は落ち着きのあるパープルで集中。
モノトーンの部屋はスケルトンチェアを組み合わせて重い感じを解消。

ワンフロアにさまざまなコーナーを作ったデジタル戦略室

5階のデジタル戦略室。さまざまなタイプのデスクやチェアの組み合わせを工夫。

5階にあるデジタル戦略室は、ソロワークやチームワークなど多様なスタイルが実現するよう、新しい要素が多数詰め込まれた空間になっています。仕切りのないワンフロアで、異なるテーブルやチェアを組み合わせて働きやすいコーナー作りが工夫されています。

「このフロア作りのために、民間のITオフィスやシェアオフィスなども見学に行きました。」と中西さん。電動で昇降するタイプのデスクやゲーミングチェアを採用したり、背中合わせで座る椅子を配置したりするなど、今までの役所にはなかった要素を取り入れています。「ソファでモニターを観ながらの会議、ソロワークをしながら椅子を回転させてのコミュニケーションなど、発想やモードチェンジなど、仕事の進め方に変化がつけられるようになりました。」

ワンフロアの開放感の中で、集中とコミュニケーション、その両方がうまく切り替えられるようになったそうです。

吸音パネルの奥や窓際は、1人で作業したり休憩したり、ちょっとした打ち合わせができるスペースに。

多目的スペースで新たな交流や催しも

1階の多目的スペース。ハイチェアとローチェアの両方を置いて、お子さま連れでも使いやすいように配慮されている。

新庁舎は、1階と5階に広い多目的スペースが設けられています。1階の多目的スペースは、庁舎内のコンビニエンス・ストアとつながっており、市民が自由に利用でき、イートインなども可能です。このコンビニエンス・ストアは、全国の公共施設では初となる無人決済店舗であることでも話題になりました。約100人を収容できるスペースは、高さの異なるデスク、椅子を組み合わせることで、利用者それぞれのニーズに応えます。伊丹市の高度浄水の給水スポットや、デスクには太陽光発電による電源コンセントもあり、サラリーマンや学生さんなどの利用も多いそうです。

5階の多目的スペース。

5階の多目的スペースは通称「en-gawa(エンガワ)」です。こちらは職員専用スペースとして、1階同様に100席ほどの広さで、仕事で自由に使える空間になっています。イケアのさまざまなテーブル、チェアを組み合わせ、コーナーごとに目的の違う使い方ができます。飲食も可能で、1階と同様の高度浄水の給水スポットも備えています。「ディスカッションをしたり、皆で集まって食事をしたり、活発なコミュニケーションやナレッジシェアの場となっていて、クリエイティブな発想を期待しています。」と中西さん。白い壁は書き込みができるホワイトボードになっているそうです。

高さの違うテーブルや、タイプの違うチェアの組み合わせがユニーク。
窓側のスペース。

窓側のスペースの天井は抜いていて、役所とは思えない自由な雰囲気を醸し出しています。壁面にプロジェクターがあり、それを観ながらのプレゼンテーションや会議なども行われるそうです。

中西さんは「リクルート的なアピールも含め、『こんな場所で働きたい』と思ってもらえるようなスペースを作れたらと思っていたことが実現しました。」と語ります。

窓側のソファスペース。壁面にプロジェクターで投影ができる。
個人で集中できる窓際スペース。窓からは六甲山が見える。山並みのような波打つデザインのテーブル。

六甲の山並みを一望できる窓側のスペースは明るく、ゆったりとくつろげるソファのスペースと、窓に向かって個人で集中できるスペースを備えています。この窓からの夜景もまた素晴らしいそう。

「en-gawaという名称にしたのは、交流が生まれる場にしたいから。たくさんの縁(えん)によって、大きな円(えん)を描いていけるよう、想いを込めています。今後、このスペースをどうやって活かしていくか、皆と考えていけたらと思っています。イベントなども提案したいですね。」と中西さんは語ってくださいました。

3階のユーティリティーゾーン。柔らかな光の照明がオフィスの堅苦しさをなくしている

今回、イケアの家具でオフィスを作って、中西さんの大きな発見は、「照明のバリエーションで空間が変わる。」ということだそうです。

「従来の役所だと、天井付けの昔ながらの蛍光灯のイメージですよね。でも今回、部屋やコーナーごとの家具を考えるとともに、イケアのさまざまなタイプの照明を配置してみて、灯りでこんなに雰囲気が変わるのかと思いました。照明でモード・チェンジができるし、コミュニケーションも変わってくると思います。」と中西さん。

「部屋を明るくするだけでなく、空間の広がりを作ることで、使う人の心にもこれほど作用するものかと実感しました。」

4階会議室
4階ユーティリティーエリア

「イケアの家具は、色やデザイン、機能、サイズのバリエーションが豊富なので、使い方を考えるのが楽しくなります。これからのオフィス・ファニチャーとしての可能性は大きいと思いますね。」

新庁舎開庁後は、問い合わせや見学も多いそうです。「隈研吾さんの設計で大きなコンセプトは環境に配慮した庁舎です。環境は自然環境だけでなく、周辺環境や建物の主張性など、あらゆる環境です。そういう意味でも、再生可能素材やリサイクル素材を使用するなど環境問題への取り組みがあるイケアの家具、LED照明やグリーンなどを取り入れたことはとてもよかったと思います。」と中西さんは話してくださいました。

伊丹市役所が、一歩先を行いく公共施設としての良いお手本になることは間違いないようです。


DATA

施設名:伊丹市役所
所在地:兵庫県伊丹市千僧1丁目1番地
HPhttps://www.city.itami.lg.jp
導入年月:2022年11月
導入に要した期間:2年7ヵ月
IKEA for Businessを選んだ理由:既成のオフィス家具にはないデザイン性、機能性と、選択肢が広い点。さらに、組み合わせによって雰囲気の異なる空間が作れることや、柔軟なコストパフォーマンスなど、さまざまなノウハウによるインテリア提案と顧客への相談体制などを評価。さらに、人や環境に配慮した商品作りや企業理念。
担当したイケアストアIKEA神戸
使用したイケアのサービスビジネスインテリアデザイン・アドバイスサービス
※使用されている商品は記事掲載時期のもので、販売終了になっている商品が含まれる場合がありますのでご了承ください。