コラージュアーティスト・宮本まなみ ー 撮影風景と家での暮らし
アニー・リーボヴィッツが、東京都のコラージュアーティスト・宮本まなみを訪ねました。きれい好き、でもたくさんのものを手元に置いておきたいという彼女の家とはどのような場所なのでしょうか。

世界的に著名なアニー・リーボヴィッツが、東京都在住のコラージュアーティスト・宮本まなみの家を訪れます。アニーは、自宅でデザインの仕事を手掛ける彼女の作品についてまなみに語り掛けます。
コラージュアーティスト・宮本まなみの部屋には、彼女がこれまでに集めてきたたくさんのお気に入りが詰まっています。好きなものと好きなものを合わせて、ひとつの調和を生み出すこと──彼女にとって、家とはそんなコラージュ作品のような空間です。
生まれながらにしてのきれい好き
その部屋に入ってまず感じるのは、とにかくそこが整理整頓された空間であるということでした。彼女の住まいは、渋谷から電車で10分という都心への近さがありながら、閑静な住宅街、子ども連れで賑わう公園、古くからの個人商店の並ぶ商店街のある、のんびりとしたエリアです。3年前にその落ち着いた雰囲気に惹かれて引越してきたまなみは、東京で一人暮らしをする多くの若者がそうするように、ここでコンパクトなフラットに暮らしています。
コンクリート調のモダンな建物に入ってまず目につくのは、左手にある大きなデスク。知人に譲ってもらったという1970年代の大きなスピーカーと箪笥の上に長い板を乗せてつくられたもので、その上には同じく70年代の木製レコードプレーヤー──アニー・リーボヴィッツが訪ねたときにはウェス・アンダーソンの映画『フレンチ・ディスパッチ』のサウンドトラックが流れていました──、デスクトップとタブレット、文房具、アートブックに自身のコラージュ作品があしらわれた鏡がきれいに並べられています。右手にはふかふかのソファとガラスのローテーブル、本棚、ラタンのウォールラック、それから彼女の「推し」──ただファンであるだけでなく、その魅力を周りにも布教したくなる対象──である日本のコメディアンであり、マルチに活動する藤井隆さんのフィギュアやグッズが、こちらも見事にスペースに収まっています。部屋の奥側、デスクの右手にはキッチンがあり、お皿やスパイスがコンパクトなスペースに並べられています。物は多いのに、乱雑な感じは一切しません。
「整理整頓が本当に病気なんじゃないかと思うくらい好きで。何かもう、狂ったように掃除をしちゃうんですよね」と、まなみは言います。「狭い部屋なので、『いまこれが正しい位置なのか』を常に考えて物を置いていかないと暮らせなくて。そう考えれば、部屋もひとつのコラージュですね」
ゴミではなく、宝物
大阪出身のまなみさんが最初にコラージュに出会ったのは、高校の美術の授業でした。美容学校に行くことを決めていた彼女は、周りの同級生が大学受験に必要な数学や英語のクラスを取るなか、美術の授業を専攻。「好きな写真を切って、集めて、ひとつの絵の中にお気に入りのものが集まるっていう感覚がすごい楽しくて」と、まなみさんはそのときのことを振り返ります。「1枚の写真でも好きだったのに、この写真とこの写真の好きなところ同士を組み合わせたらもっと好きになった、っていう感覚がすごく楽しかったんです」
それからは、雑誌をコピーしたり、本を買っては切り集めるのが習慣に。母親からは「ゴミだらけ」と言われても、それは彼女にとって「宝物」でした。そしていつしかコラージュという表現は彼女にとって、単に好きなものを組み合わせてビジュアルをつくること以上に、自らのコミュニケーション手段になりました。子どもの頃から話すことが得意ではなかった彼女は、ひとつ年上の口が達者な姉にいつも言い負かされていたそうです。しかし、言葉では表現できなかった頭のなかの思考や感情も、コラージュとしてなら素直に表現することができました。「それはゼロから生み出せるものではないけど」と彼女は言います。「1と3を足したら、4以上になることもあるんです」。その可能性に魅せられた彼女は、人生のなかで何かをコミュニケートする必要があるときには──履歴書でも、ポートフォリオでも──コラージュで表現するようになっていきました。
美容学校を卒業して大阪で美容師として働いたのちに、「若いうちにいろんなものを見ておいたほうがいい」という思いで22歳で上京。アパレル会社で働きながら、空いた時間で趣味として作品をつくり、知り合いの紹介で展示をするうちに、少しずつコラージュの仕事を依頼されるようになりました。仕事を辞めて、コラージュアーティストとして独立したのは26歳のとき。「30歳のときには自分の好きなものだけで仕事をして、楽しいって思いながら生きたいなと思って」と彼女は振り返ります。32歳のいま、部屋のなかで好きなものに囲まれながら、好きなことを仕事にしている彼女は、その願いを叶えているように見えます。
整理整頓が本当に病気なんじゃないかと思うくらい好きで。何かもう、狂ったように掃除をしちゃうんですよね。狭い部屋なので、『いまこれが正しい位置なのか』を常に考えて物を置いていかないと暮らせなくて。そう考えれば、部屋もひとつのコラージュですね。」
宮本まなみコラージュアーティスト、東京都
「どれも好き」といえる空間
まなみの1日はカーテンを開けることから始まります。大きな窓から入ってくる太陽の光を浴びて、レコードで音楽を流し、コーヒーを飲み、掃除や洗濯などの家事を片付け、10時半にデスクに座って仕事を始めます。知り合いのコラージュアーティストの作品で、彼女がデスクトップの上に置いている人形──バットマンの顔とミッキーマウスの手、シュレックの足をコラージュしたもの──に見守られながら、1日の多くの時間をそのデスクで過ごします。
クリエイティブに自宅で仕事をするために、彼女には家についていくつかのこだわりがあります。ひとつは、部屋の空間を「オン」と「オフ」で分けていること。デスク側が「オン」で、ソファ側が「オフ」であり、デジタルとアナログ、仕事モードとゆったりモードを、彼女は場所で切り替えています。例えば、調べものをするときにも、オンラインで探すときはデスクトップの前だけで行い、ソファの上でタブレットを開いたりはしません。逆に、本や雑誌を見るときは必ずソファに座って読むようにしているそうです。ひとり暮らしのフリーランサーにとって、オンとオフの境目が曖昧になってしまうのは簡単です。彼女は空間に目的を与えることで、デジタルから距離を取り、リラックスした時間を意識してつくっています。
もうひとつのこだわり──というよりも、コラージュアーティストとしての執着と言うべきかもしれないが──は、素敵だと思ったあらゆるものを収集して、いつでも見られるように取っておくことです。「人から見たらがらくたかもしれないですけど」と言いながら、彼女はデスクの右手にある大きなラックのなかに大量に詰め込まれた、雑誌の切り抜き、空き箱のパッケージ、誰かからもらったDM、洋服のタグを見せてくれました。デスクトップの上の壁には、彼女が昨年ポートランドに行ったときに本屋で見つけた作品紹介用の紙が貼られていて、現在のプロジェクトのインスピレーションとして使っているそう。
「わたしにとっては、宝箱のようなものですね」。彼女にとって家はどんな空間なのかと尋ねると、彼女はそう答えてくれた。「ものすごく収集癖があるんですけど、日々お気に入りのものを買ったり集めたりしたものが、手元にないと嫌で。『あれ素敵!』ってなったときに、やっぱり部屋に置きたいし、眺めていたら幸せな気分になる。なのでわたしにとって家は、『どれも好き』みたいな空間ですね」
好きなものと好きなものを合わせて、幸せを感じること──それは高校生のときの彼女が、最初にコラージュに出会ったときに感じたことにほかなりません。だからこそまなみにとって、家は「コラージュ」そのものです。「好きで固めると」と彼女は笑います。「もう本当にわがままになっていく一方です」
IKEA + Annie Leibovitz
イケアのLife at Home Reportによると、世界の約半数の人が、彼らの家での暮らしがメディアにあまり取り上げられていないと感じています。
イケアは、そんな人々のリアルな暮らしこそ取り上げる価値があるものだと信じています。そこで、私たちは暮らしの捉え方を変えることを試みました。有名な写真家であるアニー・リーボヴィッツとの初のアーティスト・イン・レジデンス・プログラムを通じて、私たちは人々や彼らの暮らしを見事な写真で表現します。